山脈に分断されし大陸『ラーグ』、ここは六つのエレメント属性に恵まれし大地。
かつて栄えた機械と魔道の文明はその文明の力により滅び去った。
今は西で機械の文明が栄え、東では魔道の文明が栄えている。
そしてかつて栄えた文明の財宝を求め多くの者が魔物の巣くうダンジョンへ乗り込んだ。
いつしか彼らはこう呼ばれていた、『冒険者』と。
そしてここ東側の国『グランディア』から一人の冒険者が今、旅立とうとしていた……


 「へえ、面白そうだな。」
俺は冒険者の宿でチラシを見ていた、内容は 『新米冒険者にオススメ!カウレア洞窟の奥地に眠る宝珠』 だそうだ。
他の新米向けの奴より遙かに目を引く。
はっきり言って新米の俺にこんな情報はありがたい。
思いたったら即行動だ。
俺は強化された革の鎧ハードレザーアーマーを着込み戦斧バトルアックスを背中に背負うとジョッキの中の甘露水を飲み干し、 「おっちゃん!ツケにしといて!」
と叫ぶとおっちゃんの罵声を聞き流しながら扉を押した。

 「小さいっ!」
俺は思わず叫んだ。
カウレア火山は小さく、二時間ちょっと歩いただけですぐに奥までたどり着いてしまった。
 (期待していた初戦闘も無し) そして最悪な事に既に宝珠は無かった。
こんな事なら近くに貼ってあった、ほかの新米向けのダンジョンに行けばよかった……
ちきしょ〜!かっこ悪いぜ俺……
「ええいクソッ!」
苛立ちに任せて壁を蹴る、 硬い衝撃が足を伝いびりびりとしびれて……

  グラリ

視界と地面がいっぺんに揺れた
「へ?」
思わず自分でも間抜けな声を出してしまう。
さっきの蹴りが洞窟の基礎でも壊したのか?
しかし揺れは収まらす、むしろひどくなってきた。
「じ、地震か?!」
すでに岩盤が崩れ落ち、俺の身も危うい。
初ダンジョンを墓場にする気はない、俺はすぐさま出口へと走ろうと駆け出し……
ってもう埋まってるし出口!
落ち行く落盤+脱出不能な俺=生き埋めもしくは圧死。
岩が砕ける音が響く中俺は死を覚悟した。
その時、だった

 ガラガラッ!

何かが崩れる音がし、急に重力を感じなくなった。
いや、これは確実に……
「うそだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
俺は下に落ちていった。

 水滴が落ちる音がする、俺は気を失っていたみたいだ。
周りを見回し、自分の状態を確認する。
俺よし、バトルアックスよし、ハードレザーアーマーよし、アイテム袋よし、リル無し。
何も問題ない、何も。
周りは通路が延びていた。
「これは……ダンジョン?」
見りゃ分かるか、でも何でダンジョンが?こんなの情報には入って無かったぞ? 待てよ、俺が最初に発見=誰も入った事が無い=お宝いっぱい。
俺が手に入れて持ち帰る→売る→金が入る→装備が整えられる。
結構おいしい話だ。
そうと決まれば善は急げだ、俺はダンジョンを歩き出した。

      〜四時間後〜

 俺は最期のたいまつに火を付けた、未だに出口は見つかっていない。
はっきり言って遭難だ、これは。
敵はメチャクチャ強く何度も逃げた。
ただし道具はそれなりに集まった、現在持っている物は、

  薬草×十個(最初から所持) 五百リル
  毒消し草×五個(最初から所持) 三百リル
  食事二日分(最初から所持) 千五百リル
  古ぼけた剣 推定八百リル
  召喚符×八個 推定千六百リル
  おそらく古代文明の金貨 推定四千リル
  風前の灯火に近いこの俺の命 PRICE LESS

 「もう十分だから俺を帰してくれぇぇぇぇっ!」
思わず叫ぶ、なりふりかまわず叫ぶ。
そして落ちてきた水滴を飲み込みにむせる。
かっこ悪すぎだよ……俺……
そんな時、野獣のうなり声が聞こえた。
俺はむせかえった時に出た涙をそのままに、バトルアックスを構えると、唸り声の方向を振り返る。
そこには通常の三〜四倍もの大きさの狼が六〜七頭いた。
ちっ、『人食い狼ウェアウルフ』か、逃げるのは……無理だな。
「なら倒すまでだっ!」
俺はウェアウルフの群に斬りかかった。
まず一撃、飛びかかろうとした奴の口を目掛けバトルアックスを一閃、バックリと半分に切り裂く。
もう一頭飛びかかってきた、俺は左腕の籠手アームガードで鋭い牙を防ぐ。
さらに三頭飛びかかって来た、俺は左腕に食らいついていた奴の頭をバトルアックスの柄でかち割ると右に跳び二頭を避ける、跳んだ勢いに任せバトルアックスで右側にいた奴の頭を切り落とす。
左足に激痛が走る、噛まれた、鋭い牙はすね当てニーガードの無いふくらはぎのあたりに深々と突き刺さっていた。
食らいついている奴の首を切り落とした、と同時に鋭い爪が俺のハードレザーアーマーを削る。
そいつの頭を半分に叩き斬った、残りの数匹は文字道理、尻尾を巻いて逃げ出した。
俺の血の匂いに惹かれてもっと凶暴な奴が来るかもしれない。
痛む足を引きずりながら俺はその場を後にした。

 いくつかの広い部屋を越え、俺はそこで休んだ。
強く薬草を握ると薬液が染み出す。
薬草を傷口に当てると、湿布のようにそれを貼り付けた。
薬液が染み痛いが、これで傷口が早く治ると思うと安い物だ。

  キイィン カアァン

遠くから剣が打ち合う音がする……人か?
俺は音がする方へ歩いて行った。

そこではファイターらしき銀髪の女の子と長剣ロングソード革の盾レザーシールドを装備した『骸骨剣士スカルナイト』が戦っていた、明らかに女の子の方が押されている。
俺は考えるより先に動いていた。
「助太刀するぜ!」
薬草が効いてきたのか、足は痛くない、そのままスカルナイトに斬りかかる。
と、相手が盾でバトルアックスを受け止める。
「おい!こいつの盾やたら堅くないか?」
「こいつ強いわよ……ってあなた誰?」
危ねぇ!相手の剣をすれすれでかわす、もちろん答えるヒマなんてない。
呆気に取られていた女の子も再び攻撃に加わる、ショートソード片手持ちの剣がスカルナイトの右腕を斬り落とす、俺も負けじと頭を蹴飛ばした。
カランと間抜けな音を立てながら剣が落ち、頭も転がった。
「勝った……の?」
「たぶん……。」
そういったとたん、体の部分が立ち上がり、落とした頭と腕をつかむと元の位置にはめ込み再び襲いかかってきた。
「しつこいっ!」
叫びながら剣を避ける、そのままバトルアックスを力任せにレザーシールドに叩き込む。
「もぉ〜っ、しつこいのはキライっ!」
背骨の真ん中あたりをショートソードが切り裂く。
バランスを崩した瞬間、スカルナイトのレザーシールドを切り裂きバトルアックスが深々と頭蓋骨の中にあった黒い石を叩き割った。
さっきのが魔力の供給源だったのか、スカルナイトはバラバラになり、単なる骸骨になった。
俺達は何とか勝った強敵の亡骸を見て安堵の声を挙げた。
「ふ〜っ、助けてくれてありがとう。
あ、私、アリア・ファーミルトン、アリアでいいわ。」
「俺はエリック・ベルジュラック、戦士ファイターだ。」
「そうなの、私は精霊使いサマナーよ、って言ったってまだ新米だけど……」
「サマナー?てっきりファイターかと思ったよ、剣使ってたし。」
それを聞いてアリアは顔をしかめる。
「失礼ね、召喚符が三枚しか無いのよ。」
「そういえば……前々から想ってたんだが、召喚符って何なんだ?」

 この一言がきっかけで俺は延々とサマナーについて教えられる羽目になった。
サマナーとは精霊と契約し、呪文を召喚符に書き精霊を召喚する職業だそうだ。
召喚したいときは召喚符を投げ呪文を唱える。
すると召喚された精霊はサマナーの魔力と自分の魔力を元に戦う。
 (召喚符は召喚時に消滅する)
ということだ。
「解った?」
「解ったけど……アリアお姉ちゃん、あたし達のこと忘れてない?」
アリアの後ろには盗賊シーフの女の子と魔道師マジシャンの男が縄で両足を縛られて吊されていた。

「ふ〜っ、助かりました。あ!私の名前はキース・コールマン、見てのとおりマジシャンです。」
「あたしはメイ・エリザート、シーフよ、ありがと。」
「で、なんだってこんなとこにいたんだ?」
俺の一言がきっかけで四人で現状を確認しあうことにした。
話を突き詰めていくとこうなる。
俺達は皆別々のダンジョンの宝珠を手に入れようとしたらしい。
俺、キース、アリアの三人は宝珠が手に入らず帰ろうとし、メイは宝珠を手に入れたとたんあの地震(おそらくは何かの仕掛け)が起こり穴に落ちた。
まず、キースが罠に引っかかり逆さ吊りになり、それを助けようとしたメイまで罠に引っかかったらしい。
そしてアリアがその二人を助けようとした時に、スカルナイトと戦う羽目になりそこで俺が登場した、ということだ。
ちなみにキースとメイの二人も新米だそうだ。
「で、どうするんですか?これから。」
キースが切り出した。
「どうするもこうするも脱出するしか無いだろう。」
「いや、気になる声を聞きましてね。」
「声?どんなの?」
「いえ、何というか、人間のような、魔物のような、そんな声です。」
それを来てメイも話に割って入る。
「それなら私も聞いたよ、オォォォォォォンって声でしょ。」

  オォォォォォォォォォォォォォン

「……こんな感じ?」
アリアが聞く。
「……うん、確実に。」
キースがうなずく。
「……もう来たんだ、足早いね。」
メイも不安そうな顔をしている。
「……どうするの私たち。逃げる?」
「相手が逃がしてくれれば。」
できる限り茶化しながら答えてみる。
「無理ね。」
アリアが断言した瞬間、俺達は戦闘態勢をとり、迫りくる敵を待ちかまえた。
現れた敵は外見だけではっきり言ってメチャクチャ強い事が解る。
二メートル強の身長で、人間のような格好だが皮膚は黒ずんでおり、一見すると腹を切り裂かれた高等悪魔アークデーモンが剣士を取り込んだみたいだ。
角のある頭蓋骨を兜のように被り、蒼い複雑な模様の刻まれた大剣を掲げる姿は戦士の咆吼を思わせた。
ん?あの蒼い大剣は……
「聖剣『ヘブンズフレイム』!?って事はあのナイト剣士は!」
俺の記憶の中にヘブンズフレイムを使い戦ったナイトと言ったら一人しかいない。
そう、俺の崇拝する剣聖ユーミール以外にいない。
まさか……あそこで取り込まれている、虚ろな目をした剣士が……ユーミール?
「あれは……『浸食邪神ベリアート』たしか遙か昔に滅ぼされたはずじゃ……?」
キースが全く違う見解を示す、ベリアートだって?

 ベリアート、別名『魂を喰らいし神』古代文明の生物兵器一種で、護衛用に作られた魔物だ。
攻撃なんかは普通の『アークデーモン』と変わらない。
(すでに普通じゃないか……)
しかし、こいつが恐れられている理由は別にある。
それは、自分より強い相手を乗っ取ることだ。
乗っ取られた相手のレベル力量、技、知識などを奪い自分の物として活動を再開するのだ。
当然、自分より強い相手を乗っ取るんだから、復活したらさらに強くなる。
はっきり言って強い、勝ち目が無いと言ってもいい。
かといっても逃げたところで追いつかれるのは目に見えている。
だとすると残る選択肢は二つだ。
一、 死亡覚悟で戦いを挑む 二、全員でバラバラに逃げ誰かが犠牲になる
俺は考えた、今ここで戦ったって確実に死ぬ、それくらいなら誰かが犠牲になった方が……
しかし……でも……
そして俺は決めた、そして思いっきり息を吸い込み……

 「いくぜっ!」
駈けだした、俺は立派な聖剣士パラディンを目指すんだ。
パラディンなら己を犠牲にしてでも人を護るべきだ。
いや、こんなのは人間として当たり前だ。
誰かを犠牲になんか……できないっ!
バトルアックスを高々と振り上げ一気に斬りつける、俺の中では最高のスピードだ。
しかし全力の一撃は片手で軽々と受け止められてしまい、そのまま投げ飛ばされる。
わかっちゃいたが……強い!
俺はそのまま天井まで叩きつけられそして地面に落ちた。
額が割れた、熱い血が俺の顔を濡らす。
ユーミール、いやベリアートがこっちへ歩いてくる。
マズイ、体が動かない……殺られる!
俺が死を覚悟し目をつぶった瞬間、地面が隆起し、俺とベリアートの間に壁を作った。
慌てて後ろを振り返ると、キースの杖から淡い光の粒が零れていた。
魔法を撃った残滓だ。
「キース!何やってんだ、さっさと逃げろよ!」
「まったく……一人で戦おうったって、そうは行きませんよ。」
よく見ると、後ろの二人も戦闘態勢になっていた。
「何格好つけてるのエリック、こんなに強いの倒したら私たち、有名じゃない。」
「そうだよー、エリック兄ちゃんだけで有名になろうなんてずるーい!」
「……勝ち目無いんだぜ?俺がここは何とかするから……」
しかし、俺の言葉はみんなの言葉にさえぎられた。
「あたしそういう考えキライ、みんな一緒に出ようよ。」
「僕達が信用できなくてもいいです、でも、みんなを助けて自分だけ死ぬなんて事考えないでくださいよ。」
「そういうあなたも、そう考えてたんじゃない?」
「あなたこそ。」
こいつら……俺とおんなじ事を……
「悪い、俺だけ先走ってたみたいだ。」
「じゃあ、いっくよ〜っ!」
メイの言葉を合図に、俺達は一気にベリアートに攻撃を仕掛けた。

 「キース、氷だ!たしかユーミールは寒さがニガテだったはずだ!」
すぐさまキースが理解不能な魔道語を紡ぎ出す。
「エリック兄ちゃん!右!」
俺はメイの言葉で慌てて大剣を避ける。
「どいてくださいっ!」
俺が数瞬前にいた空間を青い光が飛び、ベリアートを凍りつかせる。
動きが止まったベリアートにバトルアックスを振り一撃を加えようとする。
氷が砕かれ、大剣が素早く俺のバトルアックスをはじき返す、これで何度目だろうか? あれから大体二時間強、俺達は戦い続けた。
ある程度のダメージは相手に与えられたようだが、こっちはかなり弱っている。
すでにヒースの魔力も底をつき始めているし、アリアが召喚した『氷の人形アイシクル・ドール』はすでに倒されている、メイの体力も厳しく今は後ろから石やら何やらを投げている。
そして俺はというと、ハードレザーアーマーはすでにぼろ切れに近くあちこち血が出ている。
アリアが召喚した『天使もどきテミ・エンジェル』の回復魔法が無ければ、とうの昔に御陀仏だ。
そしてなにより、俺のバトルアックスには多くのひび割れが走っており、いつ折れてもおかしくない状態だ。
この状態での武器の消滅は戦闘不能を意味する。
かといって攻撃しなければ後ろの三人が危ない。
もはや俺達は、互いの協力無しには五秒たりとも持たない状態だ。
俺はさらに激しくバトルアックスを叩きつける、早く倒さないとマズイ。
と、

  パキィィィィン

という金属が割れる音が聞こえた。
まるで時間が止まったかのようだった。
バトルアックスだった刃はくるくると回転しゆっくりとベリアートの全身へ突き刺さっていった、それと同量の刃が俺にも襲いかかる。
アームガードで素早く体をかばう、破片が両腕に突き刺さる。
しかし体への直撃は免れた、すぐさまテミ・エンジェルが傷口をふさぐ。
同じく大量の刃が突き刺さったベリアート、いや本体のユーミールの目に光が戻り、笑ったような気がした。
いやあれは確実に笑っていた。
次の瞬間ユーミールは高々と聖剣ヘブンズフレイムを掲げると
自分の腹に突き立てた、誇り高い戦士として。
何かをやり遂げたようなほほえみを俺に向けながら、剣聖は果てていった。

 結局、俺達はアリアが持っていた最期の召喚符に封じられた『光の精ウィプス』で出口を探し、そこから脱出した。
後々思うとあれはユーミールの最期の抵抗だったんじゃないだろうか?
今となっては真実を知るのは俺の背にあるヘブンズフレイムだけだ。
そしてその数日後、冒険者の宿には新しいチラシが貼ってあった。
『エルニア山脈に眠る秘宝! 初心者パーティ向け』
「へえ、面白そうだな。」
「たしかにそうね。」
「興味を引かれますね、行きますか?」
「もちろん行くーっ!」
そう言うと冒険者の宿から勢いよく飛び出した。
俺達の冒険は、これからだ。