「……たけがみ!!武上!おい!!聞いてるのか!!」
やばっ、寝てたみたいだ。
「武上、眠くなるほど俺の授業は退屈か?」
「いや、寝てませんよ、マジで。」
ここで間違ってでも「はい、正直ムチャクチャ退屈です。」
とでも答えたら即刻チョーク投げられるんだろうなぁ……
「ほぉ……なら次の所読んでみろ。」
やばっ、全然わかんねぇよ。
いつもの事ながら黒板も何書いてあるかさっぱりわからん……
「資料集36ページの5行目だ。」
おぉっ、天の助け!
小声で教えられた場所を慌てて開き、読み始める。
「え〜と……『平安時代、 陰陽連おんようれんという常世の者を退治、送還する事を成合としていた機関はその後、政府による解体で一時期歴史から姿を消したが、その後必要に迫られ独自に教育機関を設立、現在もなお常世の者たちと戦うため、能力者や術者を育てている。』」
……これウチの学校のことじゃん、勉強する必要ってあるのか?
「よし、座っていいぞ。え〜さっき武上が読んでくれたとおり、この学校もその一つだ。」
クラスのみんなは『当然そんなことわかりきっている』といわんばかりの顔で、次の授業に向けて準備を始めている。
さて、俺も用意を始めよう。
ブレザーの内ポケットから鉄球の入った袋と 呪符じゅふの束を取り出し、数を確かめる。
鉄球はともかく炎の呪符がたりないな……。
赤の筆ペン(呪符用)と何も書かれていない呪符を取り出すと炎の 呪言じゅごん を書き入れる。
7枚目を書き、調子が出てきた所で恐怖の一言が耳に入った。
「あ〜ここは試験に出るからよく覚えておくように。」
そのまま黒板を消す音、ち、ちょっと待て!
俺の心の中の悲鳴など当然無視しながら非情にも黒板の文字は消されてゆく。
かろうじて読みとれた言葉は……え〜と?退魔学園の創設者の名前?知るかよ……
仕方ない、後で資料集から探そう……
 半ばあきらめながら、俺は再び何もかかれていない呪符に呪言を書き入れる作業を続行した。
先生も半ば投げやりな調子で授業を進めていた、当然、言ってる意味はほとんど分からない。
 26枚目を終えた時にチャイムが鳴り始めた。
 先生は渡りに船と、さっさと号令をすませると出て行ってしまった。
 ここからが勝負だ、アレが借りられるかが、そのまま成績と命にも繋がりかねない。
すぐさま呪符の束を制服の中に突っ込み、袋を担ぐと、売店の横にある目標を確認する、よし、今日も開いてる。
(閉まってたらかなり困るぞ)
そして他のクラスが廊下に出て混雑する前にすぐさま廊下に駆けだした。
 ちっ、なかなかの好スタートにも関わらずもうあんなに移動してる奴がいる。
見るとずいぶん遠くに隣のクラスの奴が見える、早めに授業が終わっていたのか、反則だ……
さすがにここであきらめる訳にもいかず、俺は再び走り出した。
走る!走る!何人か追い抜いた!階段も2段跳ばしで駆け降り、さらに残り5段は一気にジャンプ!!
(非常に危険なのでよい子も悪い子も絶対に真似しないこと!)
 一階まで降りると素早くある建物の中に入る、そこには男女問わず、1クラス分の生徒が非常に小さな場所に殺到し、大声を上げていた。
俺も人垣の隙間を見つけると素早く滑り込んだ。
前までぐいぐい進んでいく、もちろん遠慮なんかしてるヒマは皆無だ。
そのままかき分けながら進む、痛てっ!足踏まれたっ!
ふと後ろを振り返ると同じクラスの連中も集まってきた、まずい、俺はまだ半分しか進んで無いのに!
さらに前進を試みる、何人かがもう人垣から抜けだし、ロッカールームに行こうとしている。
すぐさまその手元を確認、よし、アレはもって無いな。
何人かが外に出たことで開いたスペースにすぐさま新しい人がなだれ込み、それが人垣の新しい流れを生み出す。
内へ内へ、さらに前進するスペースができあがり、そこへ割り込もうとする、くそっ、先取りされたっ!
少しずつ目当てのカウンターが見えてきた、中では顔なじみのオバチャンが必死で働いている。
人垣からさらに人がはき出される、次こそはと新たなスペースに割り込む、よしっ!何とか成功!
カウンターまで残りは30センチにも満たない、俺はさらに無理やり前進をかけ、割り込む。
外へ追い出そうとする力に抵抗し、なんとかカウンターの縁をつかむと思いっきり声を張り上げた。
「オバチャン! 三鈷杵さんこしょある!?」
他の生徒の大声もあり、聞こえなかったようだ、2度、3度、同じように声をかける。
よしっ、勝ったっ!
 オバチャンが三鈷杵を持ちこっちに来る、俺はすぐさま左腕にあるPIPT(Personal Information Processing Terminal)の画面を開く。
そこには俺の個人情報が打ち出されていた。
武上 隼人・年齢16歳・降龍学園1年6組出席番号10番、緊張に若干引きつった顔をした俺がこっちを向いていた。
……バカみたいだ、写りの悪い照明写真を消し、残りのポイント(この学園内でのお金)が標示させる。
『残り327Pt』……月末だし仕方ないよな、うん。
そうこうしているうちに俺が頼んでいた三鈷杵が届いた、俺は左腕を差し出しつつそれを受け取る。
オバチャンも俺の腕にあるPIPTにリーダーを掲げデータを書き込む。
 確認音が鳴るのを聞いて俺は腕を引き、すぐさま人混みから外れた。
素早く残りポイントを確認する、『残り222Pt』おっ、ぞろ目だ、いいことあるかも。
ついでに三鈷杵も確認しておく、筒のようなその両端には3つ又の爪がついている、その一つひとつを触ってもぐらつきがない、問題なさそうだ。
俺はそれをベルトに挟みつつ階段を駆けあがり、3階のロッカールームに向かった。


Next