現場はここから7qほど離れた場所にある森だった。
俺たちは市営バスから降り、しばらく森を歩いていたのだが……
「もういや〜っ!一歩も動きたくない〜っ!」
という明津の叫び声の元、俺たちは休憩を余儀なくされた。
内心俺もそう思っていた所だ、ちょうどいい。
俺たちははっきり言って道に迷っていた。
目印は無くなってるし景色はどこを見ても見るからに寒そうな木々と落ち葉ばかり。
正直3十分も、ただでさえ足場の悪い密林、冬の寒い中入れば男でも根をあげる。
しかもこの森、たちの悪いことにあまり人間の手が入っていないらしく、ほとんど獣道を通っている状態だ。
なぜこんな事になったかというとそれはかれこれ15分前に原因がある。

 〜15分前〜

「右だな。」
「左だ。」
武器を再び構え出す2人、ってかここ国有林ですぜ旦那!
分かれ道でやっぱり四守と降龍寺が口論(一部銃弾と魔槍の応酬)になり、かなりの激闘の末「じゃあジャンケンで決めたらどうですか?」という美邦のよけいな一言が原因で分かれ道に入るたびにジャンケン(ちなみに四守が2勝、降龍寺が7勝)で道を決めてしまった。

〜現在に戻る〜

結果当然のごとく道に迷った(というかそんな決め方で迷わない方が奇跡だ!)
……ひょっとしたら美邦、わざとやってないか?
「今、『わざとあの時ジャンケンなんて言ったんじゃないか?』とか考えていませんでした?」
ギクッ!なんで分かった?!ひょっとして読心術でも使えるのか?こいつ?
「い、いや、そんなこと無いぞ。」
「そうですか。」
何かにこにこしてるし、その笑顔が一番怖いんだよっ!その笑顔が。
……後で何言われるかわかったもんじゃない。
「しかし変だねぇ……地霊の気配が全くしない……」
そういえば……明津に言われるまで気づかなかったが確かに地霊の気配が全くしない、普通、これくらいの規模の森になると地霊や精霊の1つや2つくらいいるはずだけど……
「なぁ恵那、それってどういう事だ?」
……四守、それ学校で習ったろ?
俺のあきれた顔を無視して明津が答えた。
「つまりぃ、地霊がいないって事はこの森、何でもかんでも受け入れちゃうんだよ。」
「要するに?」
「悪霊たちもたくさん……」
 その言葉に反応した訳では無いだろうが、計ったとしか考えられない様なタイミングで悪霊たちが姿を現した。
 すぐさま体が戦闘態勢に入って行くのが分かる、数は1、2……8匹かっ!
袖口に手を突っ込み呪符をひっつかむ、そのまま体をひねりアンダースローでそれを放りつつ叫んだ。
火弓かきゅう!」
霊力を込めた呪言に従い呪符が燃え上がる、そしてそれは瞬く間に火の玉となり高速で悪霊―― 餓鬼がきたちに向かった。
風刃ふうじん!」
少し遅れて天野の呪符が餓鬼たちに飛んでゆく、呪符が切り裂かれそのまま風の刃となって餓鬼に向かう。
餓鬼たちはあわてふためきバラバラに分かれていく。
「朱雀大聖の名において我命ず、 白鬼びゃっき!」
人型の紙が周囲の霊力を吸い取りそれを纏う。
数秒もせずにそれは白く宙を舞う白い鬼に変わっていた。
降龍寺の得意技、式神使役だ。
 白鬼は完全に霊力を蓄え終えると活動を開始、手近にいた餓鬼を殴り倒し撃墜する。
しかし残りの餓鬼たちはそれにかまわず前進、俺たちのすぐ近くまできて取り憑くつもりだ。
すぐさま帯から三鈷杵を取り出し刃を伸ばす、降龍寺も接近戦に供え同じく三鈷杵を構える。
四守は四守で魔槍『鬼牙』を取り出し構える。
先に仕掛けたのは意外な事に天野だった。
俺たちでも追いつけない様な速度で餓鬼に肉薄、そのまま拳を叩き込む。
どうやら籠手とすね当てに霊力をため、それを直接叩き込んでいるようだ、これなら悪霊相手でも格闘ができる。
(結構高等技術で、俗に魔道格闘と言われている)
俺も見とれてないでしっかりしなきゃ。
天野の後を追い餓鬼を一閃、ぱっくりと餓鬼の体が半分に分かれ霧散する。
まずは1匹。
左に気配を感じてすぐさま袖口の鉄球を掴む。
分子形成能力を発動、鉄球に刻印(こくいん)を刻み込む。
そのまま掴んだ分だけ放り投げると方力(霊力を使った念力みたいな物)を使い空中に停止させる。
すると予想どおり、空中の鉄球の密集地帯に餓鬼が飛び込んで来た。
「雷光(らいこう)!」
呪言と同時に鉄球が電気を帯び、雷の網に変わり餓鬼を雷の網で包みこむ。
ほんのわずかだけ苦しんだ様だがあまり続かず、網の中で餓鬼は霧散した、これで2匹目。
周りを見ると四守の『鬼牙』に突き刺され、霧散している餓鬼がいた。
って事は残りは5匹か。
餓鬼たちも負けてはいない、その口から四守に向かって火の玉をはき出した。
四守がこれを除ける、と同時に降龍寺がその横から斬りつけた。
これで後4匹。
「……With shout of triumph!」
一陣の風がその残りに吹き付ける、中には無数の鎌鼬(かまいたち)が起こっているらしく全身をずたずたに引き裂かれ、断末魔の声を上げながら残りの4匹は霧散した。
「よしこれで……」
四守が気を抜いた瞬間、木陰から無数の餓鬼が飛び出した。
くそっ!あいつまだ気づいていない。
まぁ餓鬼相手に死ぬ奴はいないがかなりやばいことは確かだ。
「四守っ!後ろだっ!」
四守が後ろを振り返る、しかし餓鬼はその腐臭のする牙を四守の首筋に突き立てようとすでに大口を開けている、ヤバイ!
「光の民よ、裁きの光で悪しき者を照らしたまえ!」
後ろから白い閃光が餓鬼を照らす、餓鬼はその光の中に溶けるように消えていった。
光の元を探ろうと後ろを振り返ると、笹を持った明津が息を切らして伏せている。
よくよく見ると光の片鱗がまだ笹に残っていた。
慌てて駆け寄ろうとしたがそれより早く四守が駆け寄り、霊力を明津に与えている。
あぁ、さっきのが噂にもなってた明津の神術か。
神術は文字道理『自分の肉体に神を降ろす』術だ。
扱いが難しく、正直使える人間は日本全国でも20人に満たない。
なぜかというと1つ術を使うだけでバカみたいに霊力を食うからだ。
(まぁ、神の力を身体に溜め込んで打ち出すわけだからその消費率も納得がいくが)
その代わり道術や修験術みたいな『決まった術以外は存在しない』ということはなく、万物の神々の力を使うわけだから効果は無限大だし、『死者を蘇らせる』とか『過去または未来に行く』とかいったSFチックなのを除けば不可能はほぼない。
……さっきの英語の呪文、誰だ?まぁ、聞くまでも無いが。
「さっきの呪文は何だ?」
早速、降龍寺が詠唱者の美邦に聞いてる。
「いや〜自分で作ったやつで『勝利の凱旋』って奴なんですけど、どうでしょう?」
……自分で作ったってアンタ、そんなの一夕一朝じゃ無理だぞ?
「……餓鬼4匹相手にはかなり過激だと思うぞ?」
確かに、あんなの餓鬼10匹でも過激じゃないか?
「使った事ありませんでしたし。」
降龍寺が信じられない物を見るような目をする、まぁ、無理もないか。
「……使った事無いのか!?」
「はい(微笑)」
……こいつ、誤作動が起こるとか考えなかったのか?
普通こいつが使うような西洋魔術、俗に言う『魔法』は天使や悪魔の力を一部借りてかなり強力な技を扱う物だ。
その代わりこっちの霊力もかなりの量を消費するし詠唱が長く、難しいので途中で間違えやすい。
詠唱を間違えると魔法そのものが発動しなかったり、下手したら暴発したり、変な具合に術が発動するというデメリットがある。
唱えるだけで難しく、その上強力すぎて霊力の消費量が著しく高いという事で日本ではあまり専属で使う者はいないのだが……
専属で使うどころか自分で開発、さらには実戦で初使用の魔法とは……危険極まりない。
まぁこうやって今成功しているわけだから結果オーライってとこだろうけど。
 しかしさっきの戦闘、俺の目は天野の方ばかり向いていた気がする。
別に術者として信頼していない訳じゃ無いんだがいったいなぜ……?
まぁ実の所、天野の実力は全く分からないし、まぁ全く心配ではないといえば嘘になるが……
でもあそこまで精錬された格闘術はあまりお目にかかれないし……
ってかそういえば移動中もよく天野のこと見てたような……
いったい俺は天野の何を心配してるんだろうか?
「まぁ、成功したからいい物の、下手すればお前の魔法で全滅だぞ?」
「いいじゃ無いですか、成功したんだし。」
「いや、別に俺はそういうことをいいたいんじゃ無くてな……」
「じゃあいいじゃ無いですか、先を急ぎましょう。」
……ちなみに俺が悶々と考え事をしているうちに口論の軍配は美邦にあがっていた。

 まだ白鬼の効果が残っているらしいので、渡りに船と俺たちは白鬼に帰り道を探らせ無事にバス停まで戻る事ができた。
何とか規定時間内に帰り着くことができ、ロッカールームで着替え、教室に向かった。
週末最後の授業はロングホームルームで内容は『今回の下見についてのレポート作成』だった。
面倒くさっ!ってかいちいち下見だけレポートを書かなくても黒帳を解決してからもレポート書かせるんだからそれでいいじゃん!
そんな文句を言いつつもシャーペンは止まらなかった。(つーか止めるヒマが無かった)
今回分かったことは、まずあの森はかなり道が複雑で、入るには山岳用の地図が必要であること。
何かの原因で地霊がおらず、悪霊が集まり結構危険であることで実際に戦闘になったってこと。
それくらいは警察が見たときに分かっていたことらしい。
これは俺の推測だがひょっとして中に入るのが面倒くさいから俺たちに仕事を回したんじゃ無いのか?
まぁそんなことをレポートに書き終わると担任に提出し、その後、流れ解散となった。


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