「すぐにその件から手を引きなさい。」
学園長室に呼ばれ、真っ先に向けられた言葉はそれだった。
「その黒帳の捜査は厳禁、犯人の逮捕が確認されるまでは外出禁止です。」
まぁ、妥当な線だろうな、外出禁止ってのがちときついが。
「それと単位の件ですが……やはりあげるわけにはいきません。」
「なぜですか!は……学園長!」
降龍寺が食って掛かる、こいつ今ちょっと『母上』って言いかけたな?
しかしこれは俺たちにはなかなか問題だ、さすがに年に3回しかない実習授業をおとすのはちと進学がヤバイ。
四守なんかこれを落としたら留年確定だ。
「さすがに魔道犯罪を解決しろとはいいません、なので他の黒帳を回しますのでそれを解決しなさい、いいですね?」
「いや、でもさっき外出禁止って言ったじゃないですか。」
「その件は後で検討しますが、そうですね……じゃあ私たちが過去の黒帳に似た状況を作り出すから、それをチームで解決しなさい、いいですね?」
「……はい。」
まぁ、別に課題をくれて、それさえこなせば単位をもらえるとわかれば俺たちに言うことはない、四守や降龍寺(戦闘狂ペア)は不満そうだが。
「じゃ、決まりということで。」
切り上げるように俺は言った。
「いえ、武上君、あなただけは少し残ってください。」
「なんですか?」
「人に聞かれるとまずいので……あなた達は先に帰ってなさい。」
みんなが目線で『お前なんかしたのか?』と問い掛けてくる。
……ひょっとしてあれがバレたか?
俺はペンダントの憑代玉を思わず見た、人前では言ってないはずだけど……
みんなが部屋から出る、と、学園長はいきなり言った。
「大丈夫よ、あの狛犬の女の子の事なら知っているわ。」
ギクッ!ばれてた!?何で!?
「『何でばれたっ!』て顔しているわね、そりゃ、毎日裏山で練習していたら普通わかるわよ。」
「……強制送還ですか?」
すまない玻璃、俺は主人らしくない主人だったがお前だけは忘れないぞ。
「いいえ、その必要はありません。」
……なんですと?
「あなたの守神には何の問題もないわ、それにどう見ても『主人と守神』って関係じゃなくて、『姉と弟』っぽい関係だし、『守神を使って不正をしよう』なんてことは玻璃ちゃんが許しそうにないしねぇ……」
げっ、名前までばれてるよ、あんなにこそこそしてた俺っていったい……
「じゃあ……何で呼び止めたんですか?」
さっぱり呼び止める理由がわからない、俺、なんかしたか?
「呼び止めた理由は……これよ。」
そういうとどこからかダークスーツを着こんだ男が刀を持ってきた。
俺と刀になんか関係が?……まさか!

「武上君、うちの武衛に頼まれてね、死んでもらうわ。」
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ、いくら何でも……」
無言で刀を抜く黒服、逃げる俺、しかしドアは開かない。
「出せっ、出してくれっ!」
冷静に後ろから近づく黒服、もう逃げ場がない。
「ごきげんよう。」
次の瞬間、刀の一閃が俺をしっかりと捕らえた!
「ギャァァァァァァァァァァァッ!!!」

無言で黒服が学園長に近づく、まさか学園長自ら!?
「武上君、『新月』って刀を知っている?」
切られる!時間を稼がなきゃ。
「いえ、どんな刀なんですか?」
「簡単に言ってしまえば……妖刀ね。」
「……妖刀ですか。」
「そうね、抜けば持ち主の命と引き換えに何でも切れる天下無双の刀になるらしいわ。」
……さすがにそんな妖刀で俺を切るつもりはないだろうな、うん。
「……コンニャクとかは?」
「……斬鉄剣じゃないのよ?」
「いや、『何でも切れる』ってやつにはお決まりのパターンじゃ……」
「アニメの見すぎよ。」
……けっこう知ってる人いるとおもうんだけどなぁ、このネタ。
「コンニャクはともかく、この刀は異界の鉄でできているそうなの。」
「そうなんですか?」
おいおい、異界の鉄ってそんな物聞いたことないぞ?
「そんなふうにこの文献には載っているの。」
「文献ですか……」
……一瞬『すげー、どんな鉄だろ?』って考えた自分がアホだった。
「え〜と文献によると……『この刀、異界で打たれ、異界で名を馳せた刀なり。その一閃は異界を呼ぶ』って書いてあるわ。」
「……なんすか、その最後の『その一閃は異界を呼ぶ』って。」
「さぁ、それは私にも解らないわ、でも言えることはただ1つ、これはあなたの先祖が代々受け継いできた刀なのよ。」
「そんな刀うちにあったんですか!?」
「……知らなかったの?」
「全然。」
「……そう」
「あっ、そういえば昔、『曽祖父が道楽のためにいろいろ家財道具とか売った』とか聞いたことが……」
「……もういいわ、ともかく、文献によるとね、『この刀、選ばれし者にしか抜けぬ、選ばれし者で無きものこれを抜けば、ただの錆刀になる。』って書いてあるのよ、だから、私が手元に持っていても価値はないし……」
と、言いながら気が付けば俺の手元にはその妖刀『新月』が渡されていた。
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ!生徒に妖刀持たせるつもりですか!?」
「大丈夫よ、ちゃんと私物として登録しておいたから。」
そんなことを言いながらも目は『そんな危険極まりない物を手元に置きたくないっ!』と語っていた。
「いや、下手に使って死んだらどうするんですか!」
「大丈夫!使って死ぬようなものなら君は絶対に生まれていないわ!青山!その子を送ってあげて!」
「ちょっ、学園長!?わっ、離せっ!まだ話が!」
黒服に引きずられ、結局俺は無理やり学園長室を退場した。

何度もアタックしてみたが、結局一度も取り合ってはくれなかった。
「ったく、何だよあれ、生徒を殺す気か?」
むかつきながらも新しく呪符を書きまくった、現在72枚目だ。
あ〜っ、なんか文句を言えば言うほどムカついてきた〜っ! 「大体、こんな刀があったなんて聞いてねぇぞ?絶対これニセモノだろ?」
今、近くの壁に立てかけられている(仮)『妖刀』は明らかに真新しく、どう見ても京都とかのお土産屋で二束三文で売ってそうなものだった。
もう一度改めて『新月』を見てみた、鞘は黒く塗られ、鍔は金でできているみたいだ(多分金メッキだろうが)長さは大体、床に立てて俺のみぞおちのあたりまであった。
そして肝心の刀身は……まだ見ていない、なんとなく本物だったら怖いからだ。
さすがに『武上 隼人、寮内で妖刀を抜き、魂を抜かれて死亡!』と新聞部を喜ばせるようなネタをやる義理はない。
何とか百枚書き終え、1くくりにすると練習用の道服に着替え、2束くらい呪符を袖の中に放りこんだ。
(自称)日本一古い狛犬の玻璃なら『新月』のこともなんか知ってるだろう。(あまりあてにならないけど)練習ついでに聞いてみるか。
ついでにPIPTのメールをチェックしておく、受信総数……げっ、12件もかよ……
まず不必要な広告メールを全削除、って残り3件かい!広告の量、多っ!
まず一件目、四守からだ、なになに…… 『新しい技を編み出したから実験台になってくれ!』か……無言で削除、他を当たれ。
2件目、担任からだ、『事件にかかわったって?大丈夫ですか!?』と書いてあった。
よくよく発信日を見ると俺たちが学園長に報告してからあまり時間がたっていない、相変わらず耳が早い、そして心配性だなぁ……
担任の神経質そうな顔が(なぜか思い出した顔は、精神安定剤を飲み、唯一幸せそうな顔をしていたときの顔だ)が思い出された。
先生のノイローゼを防ぐため、一応返事で、全員の無事と学園長から言い渡された黒帳への対処法を書いて送っておいた。
3件目は……天野からだ、そういえばずいぶん前にアドレス交換したっけ?
即座に内容を確認、なになに……『話があるから裏山まで来て』と書かれ、添付されたGPSは昨日の広場を指してた。
ひょっとしてこれって……『こ』のつくあれですか!?
俺は期待を胸に『新月』を引っつかむと全力で裏山へ向かった。


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